「地下水ブックガイド」は日本地下水学会 市民コミュニケーション委員会のメンバーが地下水に関する本の目次を紹介するコーナーです。地下水について知りたいことがある時は、このコーナーに掲載してある「文字」を頼りに、調査のきっかけにしてみてください。簡単な紹介コメントも掲載しますので、その本を入手したい場合等は参考にしていただければ幸いです。また当コーナーに掲載の内容にご質問等がある際は、委員会への質問コーナーにてお問い合わせください。(お答え出来ない内容もございますが、ご容赦願います)
皆様の地下水調査への指南となれば非常に嬉しく思います。
最近は昭和の名水百選や平成の名水百選などが環境省から発表され、水の大切さに関心が高まり、名水を巡る旅や湧水散歩なども行われるようになってきました。その中には、各地の名水に関する本は名水紀行のような内容で多く出版されていますが、さらに詳しく名水や湧水(地下水)について知りたい人も増えてきました。そんな方々より時々「地下水について学びたいのですが、どんな本で勉強すればいいのですか?」とか「地下水について分かりやすく書いた本ってどんな本がありますか?」などと聞かれることがあります。 日本地下水学会では「名水を科学する」「続名水を科学する」「新名水を科学する」などの出版をして学術的な見地からみた名水についての知見を刊行してきました。日本地下水学会誌には、名水の解説シリーズのほかに地下水に関する本の書評もあり、これまで多くの本の紹介がされてきました。しかし、紹介される本は、専門的な部分もあり、一般の方の要望に十分応えるには至っていません。一つには、地下水に関する本と言っても多岐の分野にわたり、知りたい内容や目的によって紹介する本も異なってきます。子供向きのものから一般的な方、建設コンサルタントなど実務者が求めるもの、研究レベルのものも理学系や工学系のものもありさまざまです。また、すでにかなり以前に発行されて、現在は入手が困難なものもあり、紹介に躊躇するものもあります。
地下水に関する本がこれまでどれぐらい出版されたのかは不明ですが、身近にある本を数えても100冊を超えています。このほかに、研究報告書や調査報告書などを含めると数千冊にも及ぶものと思われます。理科の教科書、水文学や水理学の本の中に一項目として記載されている場合も多くあります。 ここでは、子供向きあるいは一般向きの本から、一部は専門家向きの本までを、本の写真と本の内容がある程度知って頂けるように目次、そして簡単な紹介を掲載するように致しました。選出した本は、大正から昭和初期のものから最近出版されたもので、明治・江戸時代以前のものや海外の洋書などは含まれていません。また、いくつかの本は現在書店で入手可能なものですが、絶版となっているものもあります。絶版の本でも、古書店で比較的入手可能なものもありますが、中には図書館で閲覧するしかないものもあります。 書名のあとに「参考」と記した本は、このブックガイドの個別紹介欄には、掲載していませんが、参考になるものとして紹介させて頂きました。さらに、詳細に調べたい方はご利用下さい。
ここでは、まずはじめに藤縄克之著:「地下を流れる川」(農山漁村文化協会 1989)を紹介します。この本は、自然の中の人間シリーズ 川と人間編 全10巻として、農業土木学会が企画した中の第7巻が地下水に関するもので、情感あふれる絵と文章で地下の川として人間との調和を考えさせる内容となっています。巻末には、専門的な見地からの解説もあり勉強となる内容となっています。 子供向きの本での地下水の取り扱いは、水循環の中一つとして取り扱ったものや水道のしくみなどの本にも掲載されていることが多くあり、学習参考書などについても、一項目だけ地下水について記載してあるものもあります。
次に、やや古い学習参考書ですが、三省堂出版より戦後すぐの昭和26年より出版された「理科文庫」があります。文庫本サイズで各分野について何十冊か出版され、その中の第17に柴田薫著:「水の旅」(三省堂出版 1951)があります。水循環の話ですが、その中には地下水についても数ページにわたり記載されています。この理科文庫は、のちに三省堂編修所編として5冊に合本され、「水の旅」はその第2巻「空と土」(1953)にも収録されています。
そして、日本地下水学会市民・コミュニケーション委員会でも、小さなお子様にも地下水について身近に感じてもらいたいという思いから、お子様に楽しみながら学んでいただける絵本「のぞいてみようしぜんかがく~みず~」(パイインターナショナル 2019)を監修しました。大地をめぐる水の動きや身近な水を、美しい絵とともに説明しています。全国の書店でお求めください!
「※ 日本地下水学会市民コミュニケーション委員会が監修に携わった、絵本「みず」の電子書籍が、2020/6/17より販売開始されました(https://pie.co.jp/book/i/305182/)。ぜひ、ご覧ください。」
「のぞいてみようしぜんかがく みず」世界へ!
2019年に発売され、ご好評をいただいている「のぞいてみようしぜんかがく みず」が、この度海外の皆様からの熱いご要望により、現地語版で出版されることになりました。
日本のみならず、世界の皆さんにも水の「そうだったんだ!」をお届けでき、一同感激です!
現地語版の詳細は、以下のサイトをご覧ください。
中国語版:男人竟是“水做的”?关于“水”的知识,你知道多少?
韓国語版:https://www.instagram.com/p/CJsjGCzlM5z/
ベトナム語版:https://ehomebooks.vn/cung-tim-hieu-ve-khoa-hoc-tu-nhien-nuoc-id24423.html
一般向きの本及書(新書版)で地下水に関する本の出版は非常に少なく、すでに絶版となっているものが大半です。ここでは昭和の初めからの普及書の出版経過を少し記すことにします。
戦前の昭和17年に最初の普及書と思われる吉村信吉著:「科学新書20 地下水」(吉村信吉著 河出書房 1942)が刊行されました。科学的な見地からの著作で著者の吉村先生は湖沼学の権威ですが、陸水や海洋関係の普及書も出されています。このほかに昭和18年に土地改良叢書の1冊として堀田正弘著:「地下水利用」(帝国農会 1943)「参考」が地下水の利用面を含めた地下水の概要をコンパクトにまとめて刊行されています。ただし、この本は古書市場にもほとんど登場しない本であり、大学図書館等でしか閲覧することができないのが難点です。
戦後では、昭和34年には山本荘毅・柴崎達雄共著:「地下水 そのうもれた資源をいかすコツ」(畑地かんがい研究会 1959)が出版されています。当時の地下水ブームに応え、地下水全般を網羅した著作で、図表や写真も多く分かりやすい内容となっています。昭和30年代後半になると、当時の通産省地質調査所において「地下の科学」シリーズと銘打った新書版が出版され、その中に昭和37年刊行の蔵田延男著:「日本の地下水」(実業公報社 1962)、昭和43年刊行の村下敏夫著:「水井戸のはなし」(ラテイス 1968)があります。両書とも地下水調査の実務を反映した内容で地下水や井戸のことが分かりやすく記述されています。
このあとはぱったりと手軽な新書程度の本は出版されてなく、平成3年のNHKブックスの榧根勇著:「地下水の世界」(日本放送出版会 1991)に至るまでありませんでした。この本の著者榧根先生は山本先生の講座で水文学(すいもんがく)特に地下水学を研究され、この著書は、地下水観からフィールドワークによる調査結果まで広範囲にわたって地下水の姿を捉えた内容となっており、かつそれらが非常に分かりやすく書かれています。しかし、残念ながら現在は絶版となっております。ただし、古書市場では比較的よく見かける本なので入手は比較的容易ではないかと思われます。この「地下水の世界」は2013年2月に講談社学術文庫で「地下水と地形の科学 水文学入門」とタイトルを変えて出版されました。まえがきには、本文の補足を兼ねて近年の学術動向、最近の地下水研究についての記述があり、現在読んでも地下水についてするには十分な内容となっています。
現在出版されている中では、井田徹治著 日本地下水学会編:「地下水の科学」(講談社ブルーバックス 2009)が地下水全般に関わる事項を広く網羅した内容となっており、地下水を初めて学ぶ人にとっては基礎的なことが学べる本です。このほかに、守田優著 日本地下水学会編:「地下水は語る 見えない資源の危機」(岩波新書 2012)があります。都市化に伴い大量揚水が続いた結果、地盤沈下や湧水の涸渇、その他新たな汚染などのさまざまな地下水障害の発生を解説し、今後の地下水とのつき合い方を示している好著です。
社会的な面から地下水を捉えた本として橋本淳司著:「日本の地下水が危ない」(幻冬舎新書 2013)があります。帯にはジャーナリストからの緊急報告。日本は水資源争奪戦に勝ち残れるか?といったセンセーショナルな文章が記載されており、外国資本による水源地買収問題などについてレポートし、自分たちで地下水を守ることの大切さを説いています。
また、地下水の利用と保全に関する入門書として西垣誠・瀬古一郎・中倉裕昭編著 GUP共生型地下水技術活用研究会著:「育水のすすめ」(技報堂出版 2013)があります。流域の共有財産である地下水について技術者の方々が少しでも地下水の涵養を考える仲間を増やしたいとの気持ちで書かれたもので29の話を読みやすく一話読み切りのスタイルで構成された本です。
読み物的なものでは、戦後すぐの昭和23年に発刊された蔵田延男著:「水を探る科学者」(柏葉書院 1948)「参考」があります。私たちの生活が水に依存しているのかを農業や工業など産業や、私たちの飲料、河川水やダム、井戸や地下水という流れで具体的に記載され、地下水を探すための手法についても記載があります。
地域的な内容となっていますが、多摩地区を中心に地下水を守る運動をされている人たちによる水みち研究会著:「水みちを探る」(けやき出版 1991)や水みち研究会著:「井戸と水みち」(北斗出版 1998)は、水みちや井戸について初心者にわかりやすい内容の小冊子となっています。特に多摩地区の湧水について詳しく記載した百瀬千秋著:「多摩の湧水めぐり」(けやき出版 1992)も分かりやすい小冊子です。同様に、地域の地下水を守る活動をされている方々による地下水を守る会著:「やさしい地下水の話」(北斗出版 1993)も東京の話題が多いものの、地下水に対してこれから学びたい人にとっては、教科書となる本です。これらの本は、現在入手可能な本です。
日本の特定地域の地下水についてやや科学的な側面から書かれた本としては、中馬教允著:「歴春ふくしま文庫8 ふくしまの地下水」(歴史春秋社 2001)や肥田登・吉崎光哉共著:「湧水とくらし 秋田からの報告」(無明舎 2001)があります。前掲の2冊とは異なり、やや一般的な本ですが、地下水が豊富な熊本で刊行された熊本開発研究センター編:「地下水のはなし」(熊本開発研究センター 1995)は、熊本の地下水について知るには入門的な本となります。しかし、全国的な一般書店での扱いとはなっていないので入手が難しい本となっています。
また、東京の地下水を主体に地下水全般については、東京地下水研究会編:「水循環における地下水・湧水保全」(信山社サイテック 2003)が詳しく、東京都土木技術研究所の方々の研究成果を踏まえた少し専門的な内容もあり、技術者の方にもお勧めな内容の本です。
このほかに農林省から東海大学教授となられ地下水についての研究を進められた柴崎先生による 柴崎達雄著:略奪された水資源 地下水利用の功罪(築地書館 1976年)と柴崎達雄著:「農を守って水を守る 新しい地下水の社会学」(築地書館 2004)も地下水利用面から地下水の大切さを扱った本として有用なものである。後者は、特に熊本における地下水利用の事例によるもので、「白川地下水バイパス」説についてわかりやすく解説されています。最近出版された山田健著:「水を守りに、森へ 地下水の持続可能性を求めて」(筑摩書房 2012)はサントリーの地下水を育む「天然水の森」を守る活動について、多くの専門家と共に様々な問題を解決していくようすについて記載された本で、日本の森と水は危ういことが知らされる好著です。
第二次世界大戦以前の地下水調査に関する本は、酒井軍治郎著:「地下水調査法」(古今書院 1941)「参」が唯一のものです。具体的に調査手法が記載されており、内容は古くなっているものが多いが考え方は現在に通じるものがあります。
戦後すぐの調査法の本は、農林省農業改良局研究部開拓研究所編:「農業土木のための地質調査法―簡便な電気探査機の使い方と実例」(農林省開拓研究所 1949)「参」であります。表記は地質調査法となっていますが、内容は水理地質構造を把握する電気探査の事例で、地下水を探す目的で行われています。電気探査の基本的な原理について事例を含めわかりやすく解説しています。使用されている機器は古いものですが、原理的には現在も変わっていません。昭和28年に山本荘毅著:「地下水調査法」(古今書院 1953)がやや専門性の高い本ですが新書判サイズで出版されています。この本は地下水調査のバイブル的な著書で、著者の山本先生(故人)は農林省から東京教育大教授(筑波大学)を歴任された日本を代表する地下水研究者です。この地下水調査法は版を重ねた後に絶版となり、新しく、昭和37年に出版されたのが山本荘毅著:「地下水探査法」(地球社 1962)です。サイズもA5判と少し大きくなりましたが、実務書として現場で役立つ本として多くの人に利用されました。これも改訂増補版として 山本荘毅著:改訂増補 地下水探査法(地球社 1971)が出されるように版を重ねることになりました。理科系の古書店では時々見かける本なので、入手できる場合があります。
その後しばらくして出版されたのが、新版の山本荘毅著:「新版 地下水調査法」(古今書院 1985)です。地下水調査に関する事項が網羅された実務書となったため、さらにサイズもA4判と大きくなりかつ分厚い著作となってしまい、簡単に鞄に携帯することができなくなってしまったのが残念なところです。実務書として、同じ著者の 山本荘毅著:「揚水試験と井戸管理」(昭晃堂 1962)があります。これは、揚水試験の実務書としては唯一のもので、現場技術書においては現在も読まれている本です。絶版となっていますが、理科系の古書店で時々店頭に並んでいますので入手できることがあります。
初心者向きの本では、高橋一・末永和幸共著:「湧泉調査の手引き」(地学団体研究会1992)があります。ポケットサイズ(B6判)の本で、湧水を主とした内容ですが図や写真が多く一般の方々が利用しやすい記述となっています。出版されて20年余となり最近は身近な水環境に関する関心も高まり、湧水だけでなく地下水全体を調べる本として、応用地質研究会著:「地下水調査のてびき」(地学団体研究会 2011)が出版されました。77pの小冊子(A6判)「参」ですが、地下水の特徴から井戸調査、湧水調査、調査結果のまとめ方まで幅広く扱っており、初めて地下水調査される方には好著となっています。
地下水調査や観測の指針となっている本として、建設省河川局監修:「地下水調査および観測指針(案)(山海堂 1993)「案」があります。国で行う地下水調査や観測業務における指針となるもので専門的な内容ですが、地下水調査業務を行う技術者にとっては必需本となります。
物理探査による地下水調査は、基本的には地下水そのものを調べるというより、地下牛を賦損している地層、いわゆる帯水層を調べることが多く、それらが各々の測定機器で計測される物理量によって算出され、それから地下水の存在する地層を類推するものです。
特に帯水層調査で用いられるものは電気探査であり、これについて詳しく記載された本が、志村馨著:「電気探査法」(昭晃堂 1963)です。専門書で内容も難しいものとなっていますが。電気探査の基本を知る上では絶好の書となっています。同様な本としてやや古いものですが、山口久之助著:「電気式地下探査法」(古今書院 1952)があります。前著が出版されるまではこの本が唯一の専門書であり多くの技術者によって読まれた。同じ著者の本で、井戸掘削した孔に専用のゾンデを挿入して電気の伝わり具合を調べることで砂や粘土あるいは岩盤などの性状を捉え、その結果からどの層から地下水を取水するか判断する時の参考となる本として、山口久之助著:「鑿井の電気検層法」(昭晃堂 1963)があります。基本原理から解析方法までを記載した専門的な本ですが、井戸掘削をする技術者にとっては一読する価値のある本です。このほかに放射能を利用して地下水を調べる放射能探査の本としてよく読まれたのが、落合敏郎著:放射能式地下水探査法(昭晃堂 1965)「参」です。やや内容は古くなっていますが基本的なことを学ぶことができます。同じ著者による最新の本として、落合敏郎著:「地下水・温泉の放射能探査法」(リーベル出版 1996)があります。一時期温泉ブームとなった頃によく利用された放射能探査について具体的な事例を踏まえ記載されています。
上記の他に、地温を測定して地下水の水脈(みずみち)を調べる方法について解説した本が、竹内篤雄著:「地すべり 地温測定による地下水調査法」(吉井書店 1983)です。特に地すべりの機構解析や対策工法検討において重要となる地下水の流れを捉えるための手法が詳述されています。ただ残念なことに書店閉鎖により現在は絶版となっています。同著者による前著を踏まえ、その後の調査等を加筆し統括した本として、竹内篤雄著:「温度測定による流動地下水調査法」(古今書院 1991)があります。最近では、前述の「地すべり 地温測定による地下水調査法」を基にして全面改訂した「地下水調査法 1m深 地温探査」(古今書院 2013)が出版されています。また、斜面全般の調査のための物理探査については、伊藤ほか編:「斜面調査のための物理探査(吉井書店 1998)が詳しく、この中には前記の地温による地下水調査などの例も掲載されています。
それらを一般的にわかりやすい内容としたものが、竹内ほか著:「温度を測って地下水を診断する」(古今書院 2001)です。初めての方はこの本から読まれるとよいと思います。
このほかに、富山の黒部川扇状地をフィールドとして放射性同位体を使用し地下水の起源や流れを調査し、コンピューターを使用した解析結果などをまとめた本として、榧根勇編著:「実例による新しい地下水調査法」(山海堂 1991)があります。那須野のフィールドとして当該地区の地下水を把握するため電気探査を中心に帯水層を含めた地下構造を解析し取りまとめた本として、提橋登著:「那須野の地下水探査記録」(住宅新報社1976)があります。このような各地の地下水の詳細なものは、当該地域の現地調査をする上で非常に参考となります。
建設工事に伴う地下水の問題を扱った本として、高橋賢之助著:「根切りのための地下水調査法」(1981)があります。この本では、地下掘削した時に湧出する地下水についての調査方法が実例を踏まえて記載されています。この本はやや古くその後の実例を含めた新版として、高橋賢之助著:「掘削のための地下水調査法」(山海堂 1990)が出版されています。また、トンネル掘削に伴う湧水については、かなり古い本となりますが、高橋彦治著:「湧水と地圧」(山海堂 1963)があります。著者は国鉄(現在JR)の研究所で鉄道トンネル掘削による湧水について調査研究をされた方で、この本では実務内容が多く掲載されており、多くの実務者に読まれた本です。トンネル湧水に携わることがあれば一読されることをお勧めいたします。
上記の他には、日本地下水学会の創立50周年を記念した出版で、日本地下水学会編:「地下水のトレーサー試験」があります。この本は、地下水の流れをトレーサー(液体などの流れを追跡する物質(追跡子))を用いて調べる試験方法について解説した専門書で、研究者や技術者などが実測した事例が掲載され、実務を行う技術者にとって役立つ本となっています。
地下水の研究は、地理学の分野でも多く行われており、特に自然地理学では、地形学、気候学と並んで水文学が大きな柱となっています。その水文学の中に陸水の研究として河川水や湖沼水と共に地下水についても多くの研究がされています。そのため、自然地理学に関する本には、地下水調査についての項目があり、そこには測水調査や水質調査などの地下水に関する調査手法が掲載されています。
古いものでは、三野与吉編;「自然地理学研究法」(朝倉書店 1959)に「地下水の調査法p.178-192(榧根勇著)」があります。同様なものとして、三野与吉編:「自然地理調査法」(朝倉書店1968)に「地下水の調査法p178-192(榧根勇著)」があります。ポケット版のものとしては、三野与吉編:「自然地理の調べ方」(古今書院 1952)や自然地理学調査法(町田貞編 古今書院 1970)があり、コンパクトに記述がされています。教科書的な本としては、尾留川正平・市川正巳・吉野正敏・山本正三・正井泰夫・奥野隆史編:「現代地理調査法 Ⅱ巻 自然地理調査法」(朝倉書店 1973)があります。
近年の名水ブームにより、名水や湧水を紹介した本は全国で非常に多く出版されています。各県や地域ごとに湧水箇所とその周辺状況を紀行風に記述し、湧水めぐりをする方々ためのガイドブックとして重宝しています。しかし、多くの本は、写真と地図と紀行文で構成され、名水・湧水の水質や湧出機構などの科学的な記載が含まれているものは、非常に少ない状況にあります。そんな中にあって日本地下水学会編:「名水を科学する」(技報堂出版 1994)はそのような要望に応えた数少ない本で、全国の名水について水質分析結果などの解説があり科学的な見地からの紹介がされています。日本地下水学会誌にシリーズものとして掲載されたものを取りまとめたもので、名水について詳しく知りたい方にとっては、有用な内容となっています。この本はその後、日本地下水学会編:「続 名水を科学する」(技報堂出版 1999)、日本地下水学会編:「新 名水を科学する」(技報堂出版 2009)が続いて発刊されていることから、多くの方が名水に興味を持たれていることが知れます。最近出版された本では、高村弘毅著:「東京湧水 せせらぎ散歩」(丸善 2009)があります。著者は、日本地下水学会会長を歴任された地下水研究者であり、東京の湧水についての紹介文と共に水質分析結果も掲載されています。
全国各地の名水や湧水の本についてはすべてを網羅することはできませんが、都道府県図書館にあるものや主な著書について各地域別に記すと次のようになります。(発行年順)
ここでは、井戸についての本の紹介をします。庭づくり、特に庭園に関係するものとして庭石と共に重要なのが水であり、その水の演出に関して井戸・滝・池泉があります。上原敬二著:「ガーデン・シリーズ5 井戸・滝・池泉」(加島書店 1958)は、庭設計に必要なことが記載されていますが、井戸についても歴史的なことからを構造的なことまで詳しく記載されています。考古学的な見地からのものとしては、山本博著:「井戸の研究 考古学から見た」(綜芸舎 1970)があります。学術的で専門的な内容で井戸遺構から井戸構造の変遷を研究した本となっています同じ著者によりこの内容を分かりやすく解説したものが山本博著:「神秘の水と井戸」(学生社 1978)で読みやすき構成となっています。
東京都水道局に長年勤め水道の専門家である著者が水道と密接に関係する井戸の話を記載したのが堀越正雄著:「井戸と水道の話」(論創社 1981)である。古代中世に井戸から江戸時代の水道へ至る過程での様々な話が掲載され、井戸掘削については上総堀りについて解説がある。上総堀りについては、民具研究の立場からの大島暁雄著:「上総堀りの民俗 民俗技術論の課題」(未来社 1986)に詳しい解説がある。上総堀りを知るには最適な本であるが専門的な部分も多い。エッセイ風の書物としては大島忠剛著:「ポンプ随想 井戸および地下水学入門」(信山社 1995)がある。特にポンプに対する思い入れが強く、同著者には、大島忠剛著:「写真集 手押しポンプ探訪録」がある。様々なポンプの写真がありなかなか面白い本となっている。考古学の立場からのものでは、鐘方正樹著:「ものが語る歴史8 井戸の考古学」(同成社 2003)と秋田裕毅著(大橋信弥編):「井戸」ものと人間の文化史150(法政大学出版局 2010)がある。前者は井戸の発掘において井戸の中から井戸枠築造技術の歴史的な展開について記載がされている。後者はなぜ弥生中期に突然井戸が出現するのかを含めさまざまな観点から考察したものである。
理学系の地下水の本で古いものは、鈴木昌吉著:地下水概論(岩波書店 1931)である。この本は岩波書店の岩波講座「地質学及古生物学・礦物学及岩石学 地理学」の中の地理学の1冊で79pの薄い冊子です。地下水全体についての概要を記したものとなっています。同様の岩波講座には、福富忠男著:地下水(専ら飲料用地下水について)(岩波書店 1933)がありこれは地質学・古生物学に中の1冊となっています。こちらは副題にあるように飲料用の地下水についての記載が中心となっています。さらにこの岩波講座の地質学・古生物学の中には、関連分野のものとなる 阿部謙夫著:水文学(岩波書店 1930)があります。タイトルに地下水学という名前が付いたものとしては、時代は可成り下りますが、村下敏夫著:地下水学要論(昭晃堂 1962)があります。著者は長年にわたり地質調査所(現在 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)で水理地質の研究をされていました。この本は、昭晃堂の「水シリーズ」の中の1冊で、地下水を扱う実務者向きの内容となっています。この本は1975年に 村下敏夫著:改著 地下水学要論(昭晃堂 1975)として改訂版が出版されています。
参考までに地質調査所における地下水調査の歴史については、元地質調査所で後に島根大学教授をされた黒田和夫氏が地質調査総合センター第11回シンポジウム「地下水のさらなる理解に向けて」で次のように述べられています。「1882(明治15)年,農商務省に地質調査所が設置されるが,地下水に関連する調査報告は,堺市街地の井戸水の塩水化の原因を探るナウマン(1883)の報告と,東京市街地の既存の深井戸の水質を調べて水道計画の資料とするコルシェルト(1883)の報告で,現今の表現でいえば環境問題であった.鈴木敏(1888)による「東京地質図説明書」には「地質と水脈」の章で地下水の水質に言及しているが,これも既設井戸や湧水の調査であった.積極的に調査井戸を掘削して地下水の賦存状態を確かめたのは,1898(明治31)年の比企忠による「京都市地質調査」である.目的は水道の敷設計画にかかわるものであるが,現在のオールコアボーリングと検層に比較できる内容の地下地質と水質の調査を行って.地下水の賦存状況を調査している.1925(大正14)年には福富忠男が札幌市の井戸の悉皆調査から地下水面等高線図を発表し,試験井戸を掘削して地下地質を把握し,あわせて水質を分析している.明治期に海外諸国との交易をもって近代化を進めた日本では,港湾,水道,鉄道網の整備がはかられた.横浜築港工事には地質調査所が水面や平野下の地盤地質調査に貢献したが、上水を道志川から導く水路建設では,経路周辺の井戸水の枯渇を招くおそれがあるとして,現在でいう環境影響調査(河野密,1912,14)を実施している.丹那トンネルの建設工事中の大出水と,それに関連する湧水,井戸水の枯掲(地下水面降下)について詳細な観測を行い,丹那盆地の地下水収支を解析した阿部謙夫は,後に日本での「水文学(岩波講座)」(阿部,1930,33)を紹介することとなった。」
さて、地下水学の教科書として最も著名なものが 酒井軍治郎著:地下水学(朝倉書店 1965)です。これまで地下水学について体系的にまとめられた本が無い中、執筆されたもので現在においても非常に有用な内容となっています。同じ著者には、地下水学の応用面を中心に書かれた 酒井軍治郎著:応用地下水学(朝倉書店 1969)があります。
地下水だけでなく陸水全体をまとめた教科書として 山本荘毅編:陸水(共立出版 1968)があります。この中のp.260-299に地下水の章があり、地下水についてのまとまった解説がされています。この本は 共立出版の地球科学シリーズの中の1冊となっています。その後の教科書的な本としては、山本荘毅・榧根勇監修 建設省水文研究グループ翻訳:最新地下水学(山海堂 1977)があります。この本は、国際水文学10カ年計画(1965-1975)の基本計画のもとユネスコにて作成されたものの翻訳です。各国での地下水調査の促進と理解を測ることを目的としたもので、地下水全般について記載された実務者向きで、1980には改訂新版が出版されています。地下水の観測に関する本としては、(財)国土開発技術センター編:地下水調査及び観測指針(案)(山海堂 1993)があり、国等が行う地下水調査及び観測の指針となるもので具体的な調査観測の仕方が記されています。
1990年代のものとしては、山本荘毅著:地下水水文学(水文学講座6)(共立出版 1992)とドミンコほか著(大西監訳):地下水の科学 Ⅰ地下水の物理と化学(土木工学社 1995) :地下水の科学 Ⅱ 地下水環境学(土木工学社 1996) :地下水の科学 Ⅲ 地下水と地質(土木工学社 1996)があります。前書は、地下水の水文学についての本で、土壌から地下の地下水挙動や流動、水循環、水収支、地下水の性格として水温・水質、探査や管理などについて記されている。地下水の基本を知る上ではすぐれた好著である。後書は、大学の専門分野での教科書として使用される内容で、地下水に関する基礎理論から実用面にまで幅広く解説した本で、日本ではこのような内容を網羅した本は少ないため、翻訳本のため海外の事例での記載となっているが地下水を研究する学生にとっては必携な教科書となっています。
1920年代からはじまった地盤沈下に対して工業用水法が1957年に施行され、それ以降揚水規制がされるようになってきました。そんな時代の実務書として 地下水技術センター編:企業と地下水(日本工業用水協会 1969)があります。地下水技術センターは、日本工業用水協会にあり、地下水技術に関する研究指導などを行っているところです。
地下水を含めた水循環について黒部扇状地を対象に研究された成果をまとめた本が、榧根勇・山本荘毅著:扇状地の水循環 環境システム論序説(古今書院 1971)です。東京教育大学(現 筑波大学)におけるフィールド調査の内容を詳しく記載したものです。
地下水は貴重な水資源でもあり、その立場から書かれた本が 水収支研究グループ編:地下水資源学(共立出版 1973)です。水収支研究グループは、元農林技官でありその後各大学で教鞭をとられた柴崎達雄氏を中心とした研究グループで、この本では水収支の立場から地下水資源の開発と保全について記されています。前著の最新版として、水収支研究グループ編:地下水資源・環境論 その理論と実践(共立出版 1993)があります。資源のみならず環境に関する論説が展開されています。柴崎達雄氏及び水収支研究グループによる本としては、このほかに地下水の管理をテーマとした、柴崎達雄編:地下水盆の管理 理論と実際(東海大学出版会 1976)と水収支研究グループ編:地下水管理モデル(環境情報センター 1978)があります。早くから地下水環境の維持管理に着目した点で重要な書籍となります。
地下水資源の保全と開発について書かれた本として 榧根勇編:地下水資源の保全と開発(水利科学研究所 1973)があります。これは千葉県市川市での地下水調査の結果をまとめたもので、地域の地下水についての研究事例となっています。
地域の地下水について書かれた本に 地下水技術センター編:地域社会のなかの地下水(地下水技術センター 1975)があります。めずらしいA4横の本で、わが町わが村の地下水として7か所の地下水利用紹介がされています。副題は「その利用のための調査と管理のガイドブック」となっているように地下水利用のアドバイスが記されています。地下水技術センターでは、蔵田延男著:日本地下水考(地下水技術センター 1981)も発刊されており、この本には全国での地下水調査の事例が多く掲載されています。また、全国各地で行った自然放射能探査の200例突破記念として出版されたものとして 地下水技術センター編:水脈調査中(地下水技術センター 1990)もあります。
九州・沖縄の地下水については、古川博恭著:九州・沖縄の地下水(九州大学出版会 1981)があります。農水省技官である著者が現地で調査したものをまとめたもので、この地域の地下水を知るには最初に見たい本となっています。
全国の地下水を知るための本には、農業用地下水研究グループ編:日本の地下水(地球社 1986)と地下水要覧編集員会編:地下水要覧(山海堂 1988)があります。どちらも事典のような本ですが、全国の平野部の水理地質構造と地下水について詳細な記載がされています。この2冊があれば日本の地下水についてある程度調べることができます。
地下水に関する政策面や資源面については、地下水政策研究会編著:わが国の地下水 その利用と保全 (大成出版社 1994)と 科学技術庁資源調査会編:日本の地下水資源(地下水技術協会 1983)があります。前書は国土庁の地下水対策室の監修しており地下水のコスト、使用量現況、障害、汚染、法制度や涵養などについてコンパクトにまとめられたもので、後書は国が資源としての地下水についての保全と使用に関する調査報告で実態の推移と技術的な進展などを取りまとめたもので、地盤沈下や自治体の地下水採取規制の条例なども付属として記されています。最近の環境保全型社会をめざす地下水環境と地下水資源マネージメントについての著書としては、佐藤邦明編著:地下水環境・資源マネージメント(同時代社 2005)があります。特に地下水環境として地下利用・廃棄物・地下水汚染、地下水資源の適正利用のおける計画と実践、法制度と揚水技術の実情について詳しく記されています。
近年は斜面における地下水の挙動が注目され、多くの研究が進展している中、斜面水文学としての研究書となるのが、日野ほか共訳:カークビー新しい水文学(朝倉書店 1983)です。斜面の地下水に関する研究書が少ないため貴重な本で古書店においても入手が難しい本となっています。
地下水の水質についての本では、やや古いものですが、小島貞男・三村秀一・菅野明男共著:上水・井戸水の分析(講談社 1974)があります。この本はフィールドワークシリーズ ; 水編というシリーズの中の1冊で、化学分析の仕方について解説がされています。
最新のものとしては、日本地下水学会編:地下水水質の基礎 (理工図書 2000)があります。地下水に関する水質分析の詳細が記されておりかなり専門的な内容となっています。
このほかに、自然地理学や地球環境関係の本の中にも、水文学の記述に地下水に関する内容のものが多くあります。
最近の本では、大山正雄・大矢雅彦著:大学テキス 自然地理学下巻(古今書院 2004)の第6章水文 に地下水の項があります。地理学基礎シリーズ2 高橋日出男・小泉武栄編著:自然地理学概論(朝倉書店)の13.水の循環と水資源の中の13.4地下水の項や13.5水資源(2)地下水利用の項などに地下水に関する記載があります。松岡憲知ほか編:地球学シリーズ1地球環境学 第Ⅲ部(古今書院 2007)の水循環システムの中、同じく地球学シリーズで、上野健一・久田健一郎編:地球学シリーズ3地球学調査・解析の基礎(古今書院 2011)の第Ⅲ章 水文 の中などに地下水に関する記述があります。このほかに 中村和郎ほか編:日本の地誌1 日本総論Ⅰ(自然編)(朝倉書店2005)の中のⅡ.日本列島の自然景観4.日本の水循環と水利用に(4)日本の地下水として数ページ記載があります。
また、ここでは紹介しませんが、地学関係の教科書や啓蒙書、農業関係の教科書や専門書においても、わずかではありますが地下水に関する記述があります。
地下水に関する本は、理学系だけではなく工学系でも多くの出版がされています。特に土木工事に伴うものや斜面災害(地すべりや崩壊)などに関係する書籍で多く取り扱われています。 古いものでは、君島八郎著:地下水(丸善 1919)があります。改版が1934に出版されています。これは河海工学第二編として土木工学の立場で記載がされているもので、この点で出版された本としては最も古い本の1つです。土と地下水、浸透や坑内湧水、土質・水質試験などの章もあります。
その後は、工学系の水理学や水文学などの中に地下水としての記述があるものはありますが、地下水が表題となる工学書は多く出版されませんでした。
地下水の水理に関する本として、現在も珍重されているもので、クリメントフほか著 外尾ほか訳:地下水の力学(ラテイス 1967)があります。地下水の水理計算における色々場合の数式が掲載されています。井戸工学する本は非常に少なく、唯一よく利用されているのが、福川豊著:実用深井戸工学(府刊行物サービスセンター 1969)です。井戸理論から揚水に関する工学的な記載がされています。井戸の揚水試験などによる地下水の水理解析法には様々な数式がありますが、それらについてまとめられたのが、酒井軍治郎著:地下水の水理解析法(地下水技術センター 1980)です。
工学系の地下水に関する入門書としては、地下水入門編集委員会編:地下水入門(土質工学会 1983)があります。建設工事に関する地下水問題について、分かりやすい解説がされています。その後、新しい分野で開発された事項を踏まえて2008年に 地下水を知る編集委員会編:地下水を知る(地盤工学会 2008)が発刊されました。地盤環境や地盤災害、地下工事が地下水から受ける影響や地下水に与える影響、地下構造物が地下水から受ける影響、地下貯蔵と地中処分などの最新の内容となっており、是非学生や若い技術者に読んで頂きたい書です。実務書で初心者向きの本は、もう1冊あります。それは、山本荘毅監修:建築実務に役立つ地下水の話 (建築技術 1994)です。基本的な地下水の解説から、水理解析まで分かりやすく解説がされており、地下水を理解する上で好著となっています。 大学の地下水工学の教科書としては、河野伊一郎著:地下水工学(鹿島出版会 1989)があります。基礎から応用までをコンパクトに解説した内容となっています。
建設工事に関する地下水対策工法として地下水位低下工法がありますが、それについて記載されているのが、松尾新一郎・河野伊一郎著:地下水位低下工法 (鹿島出版会 1970)です。地下水理に関する基本事項が記述され、実務書として長く使用されている本で1979年に改訂増補されたものが出版されています。同様に地下水対策の実務書として、藤原紀夫・山下幸夫著:わかりやすい土木技術 地下水処理工法(鹿島出版会 1981)があります。根切り工事に関する本は、地下水調査の本ところで紹介した高橋賢之助著:「根切りのための地下水調査法」(1981)及びその新版の高橋賢之助著:「掘削のための地下水調査法」(山海堂 1990)の他に、地盤工学会編:根切り工事と地下水 調査・設計から施工まで (地盤工学会 1991)があります。調査段階から設計施工までが詳しく解説された実務書となっています。
地下水解析に関する本としては、P.S.フヤコーン・G.S.ビンダー著 赤井浩一訳監修:地下水解析の基礎と応用(上巻)基礎編 (現代工業社 1987):地下水解析の基礎と応用(下巻)応用編 (現代工業社1987)がある。かなり専門的な内容となっているが、地下水解析を行う上では重要な内容が記載されています。 地下解析を行う上で重要となる地下水モデルについての本は、Mary P.Anderson, William W.Woessner 著 藤縄克久監訳:地下水モデル(共立出版 1994)がある。また、地下水の水理については、佐藤邦明・岩佐義郎編:地下水理学(丸善 2002)がある。
この本は、地下水の力学的挙動を、水文循環、地下水調査・地下水管理などに関する総合的にまとめたもので学生の教科書として広く用いられています。
最近話題となっている地下す環境に関する本としては、西垣誠監修:地下構造物と地下水環境(理工図書 2002)があり、特に、地下水の流動保全の現状と種々の保全工法の設計法などが記載されている。岡山地下水研究会著:実務者のための地下水環境モデリング (技報堂出版 2003)には、地下水問題に対するモデルの適用に関してのもので、モデルの出来が解析結果から将来予測やリスク評価に大きく影響することを踏まえて解説しています。ライナー ヘルミック著 平田健正・樫山 和男訳:地下水環境での多相流と輸送現象 (シュプリガー・フェアラーグ 2004)があります。現象面の理解とその基礎からモデルによる数値解析までを解説した専門書です。
地下水環境に関わる様々な問題について新たに詳しく解説したものが、藤縄克之著:環境地下水学(共立出版 2010)です。地下水学に関する日本の著者による教科書が無い中、この本は地下水の基本から、応用、特に土壌・地下水汚染に関する対策や地下水流動解析・物質や熱移動などについても詳しい内容の本となっています。
地下水の人工涵養についての本は余り多くなく、ここでは代表的なものを取り上げます。 地下水人工涵養の現況については、少し古いが、建設省河川局河川計画課編:地下水人工かん養の現況と課題(山海堂 1988)にまとめられています。社)全国鑿井協会・社)地下水技術協会による発行で、昭和61年10月30日に開催された地下水セミナーの内容を記されたもので、地下水人工涵養の意義・問題点・諸外国おける例などが紹介されています。
日本での人工涵養の例としては、肥田登著:扇状地の地下水管理(古今書院 1990)があります。秋田県の六郷扇状地を対象として地下水に関する問題を徹底的に追求した内容で、地下水環境について、自然科学的および社会科学的な面から人工涵養や地下水利用、地下水管理のあり方などを記述した実践的な本となっています。日本地下水学会においても、21世紀の地下水管理ということで、日本地下水学会編:雨水浸透・地下水涵養(理工図書 2001)が出版しています。地下水学会誌に連載された誌面講座「雨水浸透と地下水環境」に加筆・訂正および新たに書き下ろしを行って編集したもので、水循環の基礎、地下水涵養の観測方法やデータ解析・分析方法・数値解析、都市部の地下水涵養、人工涵養、地下水涵養研究といった構成の本です。技術者や大学での研究を行う人にとって参考となる書です。このほかにガイドラインとしては、アメリカ土木学会著 肥田ほか訳:地下水人工涵養の標準ガイドライン(築地書館 2005)があります。アメリカの標準ガイドラインですが、地下水の人工涵養を行う上での参考となるものです。
地下水の汲み上げに起因する問題の一つに地盤沈下があります。この問題は大正時代から注目され、昭和10年には政治家の菊地山哉が「沈み行く東京」(上田泰文堂 1935)という本に著わしています。地下水に関連して書かれた本としては、蔵田延男著:地盤沈下と地下水開発(理工図書 1960)があります。地質調査所での工業用水調査グループの過去12年間の地下水調査の実績を踏まえ、工業用水法等による地下水保全の大切さを基本として地下水の適正揚水について説明がされています。工業用水法と地盤沈下については、同じ著者よる蔵田延男著:地盤沈下と工業用水法(ラテイス 1971)があり、地下水の適正かつ有効に利用するために地下水の汲み上げ規制を行う工業用水法の施行後15年間の実績を中心とした地下水行政について記されている。一般的な読み物としては、三省堂新書の柴崎達雄著:地盤沈下 しのびよる災害(三省堂 1971)が分かりやすい解説書で、ゼロメートル地帯の異変、地盤沈下論争、ゼロメートル地域から脱出について地盤と地下水に関して科学的な観点から記載がされています。地盤沈下は環境問題として大きく注目され、環境庁(現 環境省)として取り組みがされるようになり、昭和53年(1978)には環境庁水質保全局企画課編:地下水と地盤沈下(白亜書房 1978)が発行され、その後平成2年にその改訂版として、環境庁水質保全局企画課監修 地盤沈下防止対策研究会編纂・執筆:地盤沈下とその対策(白亜書房1990)が出版された。後者では、地盤対策行政の要請に応えるものとして、地盤沈下問題の歴史、現行諸制度、地盤沈下の機構、大深度地下利用に伴う地盤沈下問題、地盤沈下の監視方法などについて記載がされている。地域的な地盤沈下に関する本としては、東海三県地盤沈下調査会編:濃尾平野の地盤沈下と地下水(名古屋大学出版会 1985)があります。東海三県地盤沈下調査会が濃尾平野の地盤沈下問題に10年間余り取り組み調査研究した成果についてまとめた本で、地盤沈下現象解明とその対策のために、濃尾平野の水理地質構造、地下水位変動、地下水質の変遷と実態、地下水の涵養と流動、地盤沈下のシミュレーション研究、地盤沈下対策について詳述されています。
地下水汚染関係の本は、1990年代より多く出版されるようになってきましたので、ここでは1990年以降発行された本を紹介いたします。 地下水汚染の中で注目されているものに硝酸性窒素によるものがあります。各務原地下水汚染研究会編:各務原台地の地下水汚染(日刊工業新聞社 1990)は、岐阜県各務原市(かかみがはらし)におけるにんじん栽培の伴う施肥による地下水汚染の原因究明と将来予測について専門的な立場で書かれた調査報告書で、平成元年度環境賞を受賞しています。この本を一般的にわかりやすくしたものとして、各務原地下水研究会著:よみがえる地下水 各務原市の闘い(京都自然史研究所1994)があります。ローカルな内容となっていますが図表や写真も多く地下水汚染に初めて携わる人にも参考となる本です。ただし、これらの本は、絶版となっており、古書店等での入手となります。 地下水汚染の一般的な内容について手軽に読めるものとして、地学ワンポイントシリーズの1冊として藤縄克之著:汚染される地下水(共立出版 1990)があります。地下水汚染の中心となっている有機塩素系溶剤による地下水汚染、地下水の基本事項、汚染物質の移動、地下水の利用と保全などについてコンパクトにまとまられている好著です。
専門的な立場から地下水汚染の基礎から応用まで学びたい人には、地下水問題研究会編:地下水汚染論 その基礎と応用(共立出版 1991)がやや古いですがおススメです。地下水問題研究会の定例発表会の内容を加筆訂正して取りまとめたものですが、当時の最新の研究内容がわかりやすく解説されています。地下水汚染の発生する背景、地下水汚染機構、地下水汚染調査、地下水汚染の解析法、地下水汚染の事例研究(4ケース)など実務技術者に有用な内容になっています。 昭和56-57年にかけて自治体の水道水源用井戸から多くのトリクロロエチレン等の有機塩素系溶剤が検出され、環境庁では地下水汚染の実態調査を実施し、全国的に汚染が広がっていることがわかり、このような地下水汚染の実態把握調査、汚染物質取扱状況調査、汚染原因解明調査を実施するにあたっての手法を手引きにしたのが、環境庁水質保全局監修:地下水汚染調査の手引き(公害研究対策センター 1992)です。54p小冊子ではありますが基本的な調査には有用な内容が簡潔にまとめられています。
廃棄物の処分に関しては地盤や地下水のついての知識が重要であり、それらについて専門的な立場から書かれた本が、Yongほか著:福江ほか訳地盤と地下水汚染の原理(東海大学出版会 1995)です、カナダやアメリカの大学教授が執筆した本で難解な内容となってる部分もありますが、地盤を扱う研究者や技術者にとって必要となる内容です。廃棄物と汚染物質、汚染物質と土の相互作用、土の透水性、吸着と拡散、汚染物質の輸送モデルなどについて詳述されています。
海外の汚染状況を知る本としては、副題にヨーロッパに見る汚染対策と記されている 藤縄克之監修 欧州土壌・地下水汚染視察団編:地下水問題とその解決策(環境新聞社 1998)があります。環境問題の先進地である北欧からフィンランド、東欧からハンガリー、西欧からドイツにおける土壌・地下水汚染に対する社会制度、浄化技術、研究体制などの現状視察した内容と我が国における地下水の保全と社会システムについて解説されています。
技術者に参考となる土壌・地下水汚染関係の本としては、重金属による汚染メカニズムについて分かりやすく解説したものとして畑明郎著:土壌・地下水汚染 広がる重金属汚染(有斐閣選書 2001)があり、土壌・地下水汚染の概要をまず知ることができる本です。同じ著者には、畑明郎著:拡大する土壌・地下水汚染 土壌汚染対策法と汚染の現実(世界思想社 2004)もあり、土壌汚染対策法の課題やアジアの地下水汚染などについても解説しています。専門的なものとしては、神野健二編著 籾井和朗・藤野和徳・中川啓・細川土佐男・江種伸之・広城吉成共著「地下水中の物質輸送数値解析」(九州大学出版会 2001)があり、帯水層中の物質輸送解析に関する研究をまとめたもので、環境汚染物質の地下水中の移行過程の予測などに取り組む研究者や技術者にとっては参考となる書です。実務書としては、土壌・地下水汚染の調査・予測・対策編集委員会編:土壌・地下水汚染の調査・予測・対策(地盤工学会 2002)があります。土壌・地下水汚染について基準などが確立されていない段階で出版されたものですが、土壌・地下水汚染の調査法、挙動の予測法、汚染の挙動予測のための物性と評価方法、対策技術などについて記述がされています。特に予測について種々の数値解析法の解説がされています。この本は、その後平成15年に施行された土壌汚染対策法を踏まえた新知見を踏まえ、続 土壌・地下水汚染の調査・予測・対策同編集委員会編:続 土壌・地下水汚染の調査・予測・対策(地盤工学会 2008)として出版されています。地盤工学会からはこの他に地下水流動保全に関する本として、地盤工学会編:地下水流動保全のための環境影響評価と対策(地盤工学会 2004)も出版されています。実務書としてはこの他に全国地質調査業協会連合会からも土壌汚染対策法踏まえた、全国地質調査業協会連合会編:土壌・地下水汚染のための地質調査実務の知識 (オーム社 2004)があります。この本は、「地質調査技士」の土壌・地下水汚染部門の認定講習会テキストとして作成されたもので、現地作業での取り組み方を中心として記述されています。内容は、土壌地下水汚染問題の歴史と現状、関係法規、汚染物質に関する基礎知識、作業の安全確保と周辺環境への安全配慮、調査の進め方、調査技術、修復工事の基礎知識について記されています。
砒素汚染については、谷正和著:村の暮らしと砒素汚染 バングラディッシュの農村から(九州大学出版会 2005)がKUARO叢書の1冊(新書判)として出版されています。ガンジス川流域の農村地帯に広がる地下水汚染について環境人類学の目で農村社会の仕組みと砒素汚染対策などについて記されています。
その他に、Suresh D. Pillai編集、 金子 光美翻訳:地下水の微生物汚染(技報堂出版 2000)がある。地下水中の病原微生物の専門書で、水文地質学的原理、地下水採取手段、病原 体検出方法、分離細菌の遺伝子的同定法などについて解説されています。
日本地下水学会においても、日本地下水学会編:地下水・土壌汚染の基礎から応用(理工図書 2006)が出版され、土壌・地下水汚染の基礎から応用までを地下水を中心に解説がされています。初心者向けには、地盤工学会の入門シリーズとして、地盤工学会編:はじめて学ぶ土壌・地下水汚染(地盤工学会 2010)があります。基礎的な事柄から解説があり、理解を深めるには適した内容となっています。
文献目録に関するものとしては、多くある中で代表的なものを少しだけ紹介します。
古いものが多く、地理関係では、戦前では東京文理科大学 東京高等師範学校内大塚地理学会により地理学関係文献目録が第1巻(昭和11年)~第3巻(昭和13年)として出版され、その中に僅かに掲載があります。戦後のものでは、三野与吉監修 地形営力談話会編:自然地理学文献目録(邦文 1940~1953)(三省堂 1956)の中に、事項別分類・地域別分類・単行本として200余りの論文と本が掲載されています。また、地理学文献目録は、人文地理学会編:地理学文献目録第1集~第11集(柳原書店~大明堂~古今書院1953-2011)として1953年~現在まで11冊が継続して出版されています。ここには1945年~2001年までの文献や本が掲載され、地下水についても「地下水」の項目で掲載されています。最新のもの(第11集)にはCD-ROM(1987-2001)も付録されています。地下水関係を中心としたものは、水文地質研究会編:地下水温泉文献目録(古今書院 1958)や経済企画庁総合開発局編集:全国地下水文献目録〔自1945(昭和20)~至1968(昭和43年)〕(大蔵省印刷局発行1968)があります。前者は昭和30年4月の日本地質学会の第61回総会にて水文地質研究会が結成され、最初の事業として出版計画されたもので、1955年(昭和30年)末までに日本人が発表した地下水及び温泉に関する研究が項目別分類と地域別分類にされ収録されています。付録として教養図書、参考図書、外国文献も数ページ掲載されています。後者は、1945年(昭和20年)~1968年(昭和43年)までに我が国の官公庁・大学・民間などの調査研究機関、ならびに学会誌・学内誌・水専門誌などの発表された地下水関係の論文や調査報告・資料などが地域別(都道府県ごと)に整理され掲載されています。この他に地下水関係だけではないが、用排水技術研究会:用排水国内文献大集(昭晃堂 1964)にも地下水関係の文献資料が掲載されています。温泉関係では、日本温泉科学会編:日本温泉文献目録(1921年-1970年)(丸善 1973)があり、昭和44年第2回温泉科学会総会で創立30周年記念事業として文献目録刊行が決まり、過去50年間の国内文献が地域別(都道府県ごと)にまとめられています。地学関係では、地質調査所編:地学文献目録〔人名別〕1945-1955(地質調査所 1957)があり、これは創立75周年記念出版物として戦後10年間の文献を人名別に整理したもので、地下水関係の研究者の文献が掲載されています。最近のものとしては、日外アソシエーツ編集:地球・自然環境の本 全情報 45/92(日外アソシエーツ 1994)があります。この本は、その後、日外アソシエーツ編集:地球・自然環境の本 全情報 1999-2003(日外アソシエーツ 2004)、日外アソシエーツ編集:地球・自然環境の本 全情報 2004-2010(日外アソシエーツ 2011)が出版され、陸水の章の中に地下水の項目があり、探査・解析・管理、日本各地の地下水などについての図書が掲載されています。この他に、古賀邦雄編集:水・河川・湖沼関係文献集(水文献研究会 1996)には、1882年(明治15年)~1994年(平成6年)の水・河川・湖沼関係の文献が掲載されており、分類として地下水(地下水・井戸・湧水・マンボ)に関する項目もありいくつかの本や文献などが掲載されています。
地下水全般について網羅した百科事典的なものとしては、地下水ハンドブック編集委員会編:地下水ハンドブック(建設産業調査会 1979)があります。1998年には改訂版が発刊されています。1500p余りの大著ですが、地下水について何か調べる時にはとても役に立つもので座右に置きたい本です。
また、地下水の用語については、山本荘毅責任編集:地下水学用語辞典 (古今書院 1985)と日本地下水学会編:地下水学用語集(理工図書 2011)があります。地下水に関する様々な専門用語を分かりやすく解説した内容となっています。
近年は、名水百選、平成の名水百選などの名水ブームで名水やミネラルウォーターに関する著作も増えてきています。これは、環境問題への関心の高さを反映していることも大いに関係しているのではないかと思います。地域の地下水、湧水を守る運動も盛んに行われており、このように貴重な資源である地下水について関心が高まり、きれいな地下水を維持していくことができていければ・・・と思っています。そのためにいくつかの書籍が少しでも役立つことになればと期待しています。
上記の他に地下水関係の本は多数発刊されていますので、少し紹介させて頂きます。何かのお役に立てれば幸いです。